日本酒紹介

【酒蔵取材】旭酒造:獺祭

山口県にて獺祭を醸す旭酒造様へインタビューに伺わせていただきました。

インタビュアーは並里です。日本酒の世界にかける熱い想いをご覧ください。

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「獺祭」旭酒造 桜井様:D

並里:N

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左からSAKENOMIRAI研究所並里、旭酒造社長桜井様、工場長三浦様

 

N:本日はよろしくお願います。まず初めに旭酒造さんのビジョンとミッションを伺ってもよろしいでしょうか?

D:私たちの酒蔵は約250年の歴史があるんですが、桜井家に変わってからは私で4代目です。そして「獺祭」という銘柄は私の父が創りました。そういう意味では酒蔵としてのミッションではなく獺祭としてのミッションをお話しすることになります。

まず私たちの造る日本酒はとにかく美味しい酒でなければ意味がありません。飲んでくれたお客様に笑顔になってもらいたい。それが唯一大事なところなんです。獺祭のミッションは「美味しい酒を造る。そのために何でもやる」。人の力、データの力、機械の力、全てを活用して美味しい酒を造ります。

小仕込みタンクが整然と並ぶ圧巻の光景

N:たくさんお酒を造っている蔵という認識はあったのですが、すごく丁寧に手造りをされている工程が多いことに驚きました。タンクも巨大なタンクではなく小さなタンクをたくさん置いてあり、品質を崩さないためにどうすべきかを考えていらっしゃる印象を受けました。社内テイスティングに関しても、最終的にそこで獺祭クォリティに満たないものは落としているということで、先ほども「これが落ちたお酒です」と見せていただきました。これだけ完璧に造っていても最終的に納得のいかないものができてしまうこともあるんですね。

D:今日も一本二本出てましたね。ただ、実は完璧に造るというのは飲む側のお客さんにしてみれば関係ないんですよね。飲んで美味しいか美味しくないか、そこが一番大事です。美味しくするためなら何でもやります。私たちは小仕込みで3000本のタンクがあるので、毎年それをフル活用して仕込みを行なっているというのが強みなんです。それを全部テイスティングしていって、気に入らないものを落としていけば二割三分、三割九分とかも品質を担保していけますし、気にくわないものが出たとしたら翌日の造りから変えていけます。そうした利点を活かして日々酒造りをしています。

N:こういう時はこうする、というようなデータをどんどん蓄積させて常に進化している印象があります。その積み重ねが膨大な量になっていますよね。この急成長も納得です。マーケットへのアプローチは勿論ですが、そもそものクォリティがどんどん上がっている。

D:データを取ることの意義はやった行動が見えるということです。例えばそれが製造部のメンバーの頭の中にだけあるのだとしたら、今度のお酒美味しくないねとなった時に検証ができません。「運が悪かった」で終わってしまう。神様のせいになったり、気候のせいになったり、米のせいになったりと本質から外れてしまう。それをデータにしていくことで、失敗を次へと活かす糧にしています。

 

N:ではここからはオンラインサロンのメンバーから質問が来ていたので読ませていただきます。

<Q:国内の日本酒市場を盛り上げていくためには、第二、第三の獺祭が必要と考えます。しかし、多くの蔵が品質やブランドの低下を理由に増産や一般流通に否定的です。その点について何かご意見があればお伺いしたいです>

D:他社については考えてないですね。僕らがすごいとかではなく、単純に「お客さんに美味しいと思ってもらえるかどうか」を大事にして、ひたすらそこを目指しているだけなんです。だから手に入りにくいとか、大事な時に飲めないとかじゃ意味がないんですよ。普通に飲めて美味しくなきゃ意味がない、というところについて必死にやっている。そのために何でもやるというのが私たちの考えです。だから他者への思いやアドバイスは特にありません。各自で好きにやるしかないと思っています。

あと、機械に関しての考えが一般の方と違うかもしれないですね。大量生産と機械って言葉として親和性が強いじゃないですか。あそこは機械でバンバン造って大儲けしているとか言われますけど、そういう風には考えていません。機械を使えばその面で正確性が増して美味しいものができるとか、あまり必要じゃない作業を機械に置き換えたらその分の人手を他にかけられるから美味しいものができるとか、そうして結果的に大量生産できることで3000本のタンクを仕込むことができる。そしてその数量を生かして美味しい酒を造るというのがありますので、機械も大量生産もうちにはポジティブな話なんです。美味しければいいかなと。

N:実際に製造の現場を拝見して、酒造りに集中するために不要な手間をかけず、人じゃなくても良い工程を機械に任せているように感じました。

D:手間をかけない。人ではできないもの、例えば毎回同じ数値を出していくとかそういうものを機械にやらせるんですよね。

N:品質と量を担保するためにも、人と機械の連携というのは大事な要素ですよね。

D:そうなんです。やっぱり飲めないというのは幸せじゃないと思うんですね。楽しみたいじゃないですか。そこが一番大事なところです。

麹の種切りは人が丁寧におこなう

<Q:獺祭さんの技術を用いれば他の蔵でも同じように品質を落とさず量を造っていくことができるのでしょうか?>

D:どうだろうなあ。私たちってわがままなんですけど、自分たちが好きなお酒、美味しいと思うお酒を自信を持って造っていく、量を増やしていくというのを大事にしていますので、結局それが他社の酒蔵のやり方に取り入れられたとしてもそれがその蔵のお酒を美味しくする、製造量を増やすということに直結するかというと難しいかもしれません。ただ、私たちはそれをやろうとして行動した結果、味も量も向上していった事実はありますので、可能性は大いにあると思います。

N:純米大吟醸だけに特化するというのも品質を上げる要素になりますよね。

D:同じことを続ける価値はそこにありますね。私の父も言っていましたが、下手なカラオケだって同じ曲だけずーっと歌い続ければ上手くなるのと同じ原理ですね。続けることが大事ですし、それをしたことで獺祭は美味しくなりました。

N:同じ純米大吟醸というものを繰り返し造っていくことで蔵人のレベルも急激に上がっていきますよね。工場長の方ともお話ししましたが、30歳でもう工場長なんだと大変驚きました。

D:本当に単純に、他の蔵の100年分とか200年分とかの純米大吟醸を私たちの蔵では1年で仕込みます。その意味ではノウハウは非常に貯まります。なので、本醸造を造れとか特別純米を造れと言われたら「よくわかりません」と、お手上げ状態になりますよ。ただ山田錦の純米大吟醸のことなら圧倒的な厚みがあります。

N:ある意味従来の職人を育てるようなやり方とは真逆の方法ですよね。

D:そうですね。うちでは初めから「美味しいお酒はこう造ります」というのを全部オープンにしています。そうして全員で同じ方向を向いて走るんです。醪の経過簿にしてもオープンにしておくことは、誰でも突っ込めるということなんです。異常があった時に、いつも蔵にいる人では気付けなかったところを久しぶりに来た人とか1年目の人が「あれ?これ気になりますよね」とか話したり、他の蔵の人が来て「これ今年の米にしては山が低いね」という話をしたりしたらそこっていいキッカケになるんですよ。うちは酒質をどんどん上げていきたいので、そういう指摘は歓迎なんです。むしろもう進化を望まないならクローズにして他の知識を入れないブラックボックスにした方が楽ですし商売としてはやりやすいかもしれません。今のやり方は茨の道かもしれませんが、厳しい目に晒されるというのが成長への道だと思っています。

壁一面に掲示される経過簿

N:今日も最初はミーティングルームでお話を伺う予定だったんですが、せっかくなら検査室でどうですかと声をかけていただけました。

D:はい、せっかくなら私たちが一番大事にしている場所でこういう話をしたいという想いがありましたし、ミーティングルームじゃなかなかその辺ってパッと話せないのがありますね。ただこの場所の欠点は周りにうちのスタッフがいるので中々に緊張するところです(笑)

インタビューのすぐ近くでは他の蔵人が粛々と仕事を進める

<Q:ニューヨークの進出に関して質問なのですが、日本で造られる獺祭とアメリカで造られる獺祭の味わいの共通点や違いなどあれば教えて欲しいです。また、現地のお米やお水を使うことで苦労されることはありますか?>

D:蔵は2020年の夏頃にオープンします。現地の山田錦は品質も価格も日本ほどではないのでそれを向こうの農家さんと話して、現地で質の良いものを採れるようにして使っていきたいです。基本は現地のものを使うので、水も現地のものを使用します。私たちは現地の条件下で最高のものを造りたいんです。日本から材料を全部持って行けばやりやすいですけど、それでは意味がない。やはり現地の水や米、人で獺祭の魂を持って酒を造ることが一番大事だと考えています。ですので、それをやるためにアメリカでのお酒には獺祭の名前は使いません。獺祭を思わせる名前にはすると思いますが、現地のお酒と日本の獺祭は当然違うものが出来上がると思いますので、これはやはり獺祭という名前は使えないというのが今の方針です。

ちなみに、ニューヨークへ行くチームの目標は「打倒“獺祭”」なんです。現地の環境下で獺祭よりも美味しいものを造ってやるというのが彼らの目標なんです。なのでまずはニューヨークとガチンコ勝負ですね。競合していくとはいえ、失敗も成功も双方の糧になるでしょう。

 

<Q:味わいの方向性は今の獺祭と同じなのでしょうか。それとも現地の嗜好に合わせて別のスタイルになるのでしょうか?>

D:造る人間は私たちなので、自分たちが自信を持って美味しいと思う味からスタートすると思います。ただし現地の環境は違いますので、そこで飲まれる「最高」はちょっとズレてくる可能性はあります。しかしそれは現地の食文化とかマーケットみたいなのを考慮して味を変えるというよりは、現地に行った私たちの感覚が変わった時にちょっとこうした味に変えていこうというアクションが起こる感じですね。そう考えると必然的に日本とは異なるものになると思います。

<Q:山田錦を使用するとありましたが、日本産とアメリカ産だと米の品質にどのような違いがあるのでしょうか?>

D:まず栽培条件の違いからいくと、日本は水田ですがアメリカは乾田です。理屈としてはアメリカでは水田にする必要がないからなんですね。なぜ日本は水田かというと、減作障害を起こさないように水と一緒に栄養を溜め込むからです。逆にアメリカはあれだけ広いので減作障害が起こる前に植える場所を変えることができるんです。条件が違うので出来が違うのは当然ですね。あとは悲しいことにまだ生産量が少ないので、現地の蔵にマニアックに供給している状況です。「きちんと量を作れば買うからいいものを作ってね、ちゃんとした価格で買うよ」という文化がまだないんですね。その結果的として山田錦がマニアックなものとして存在してしまっています。その状況を私たちが良い方向に進めていきたいですね。

N:水質についてはどうでしょうか?

D:ちょっと硬水です。浄水器のメーカーさんから日本と同じ水質にできる機械と薬剤を提案されましたけど、それはやる必要ないと断りました。水質としては悪くないので、現地の水を生かして良いものを造っていくことの方が大事です。日本の今のノウハウが通用しないところもあると思うので、そこはゼロから考えていきます。

清流の脇に佇むこちらでは獺祭の試飲をすることもできる。

<Q:遠心分離の可能性について教えてください。>

D:遠心分離を使用すると出来は良くなります。袋搾りのスタイルの最新版というイメージです。従来の袋吊りではポタポタと落ちている間にも香りが変化していきますが、遠心分離器ならその心配もありませんし、香り良く袋香も付かなくて済みます。ただ、この最新技術を私たちだけがやってもノウハウが蓄積しません。イノベーションを起こすほどの試行回数はうちだけでは足りないと思うので他社にもどんどんやってもらうのがいいと思いますね。あとはこの方法を用いて日本酒を搾るのならば、やはり美味しいものを造る意味でも使用する醪は特に状態がいいものを使います。

<Q:海外における日本酒の立ち位置をどう考えていますか?その中で日本酒の優位な点と求められるポイントを教えてください。>

D:ざっくり言うと海外で日本酒の立ち位置というのはほとんどありません。私たちの酒蔵は今日本酒の全輸出金額の15%を超えたくらいの位置にいます。日本酒の輸出に関しては日本一の酒蔵なわけですが、だからこそそれがすごくわかります。まだまだ誰も知らない。日本食を食べに行った時に飲むマニアックなアルコールとしか見られていません。ここからスタートするしかないんですが、これは他に食い込めないほど日本酒が美味しくないのかというと、そんなことは決してありません。美味しい日本酒と美味しくない日本酒がある。美味しいワインと美味しくないワインがある。そうした事実が頑然として存在するわけで、美味しい日本酒というのは美味しいワインの世界にも入っていくことができます。戦って勝てるところもあります。しかし現状としてはまだまだちっぽけなものだと考えています。

N:世界の規模で考えると、日本酒のポテンシャルに対して知名度は乏しいと私も思っています。日本酒はワインとは異なるキャラクターがあると思っているのですが、そのあたりについてワインとの対比で伺ってもよろしいですか?

D:まずなかなかキャラクターを説明できないところが難しいところですよね。ワインが醸造酒としての世界を作り上げてきた中に勝負を仕掛けていくので、ワインの方法論や考え方に対抗していかないといけない。そこは不利な点ではあります。一方で、ワインでは合わない食品も現に出てきている。そうした食品に対してかつては流通の関係上ワインを合わせるしかなかったところに日本酒を合わせる選択肢が生まれてきた。そこは日本酒の強みですね。食品への需要度が他の醸造酒よりも強いと思いますね。

先日もフランスへ行った際に現地のソムリエ達を呼んで日本酒とフランス料理を合わせる場を設けました。その時に白アスパラガスが出てきたのですが、これワインを合わせるのが非常に難しいんですね。しかしその白アスパラガスに対して獺祭がものすごく合うと知って衝撃を受けた、世界観が変わったというソムリエ達を目の当たりにしているので、可能性はまだまだあるなと思っています。

<Q:獺祭は間違いなく美味しいとは思うのですが、個性にかけるという印象を持たれることもあるかと思います。海外では個性的な酒質の方が刺さると言われますが、そのあたりへのアプローチはどう考えていますか?>

D:まず前提として、日本酒が全部美味しいと思わない方がいい、という立場から私たちはスタートしています。美味しい日本酒、美味しくない日本酒というのは間違いなくあります。日本酒を応援したいという気持ちの中でどうしても誤解が生じてしまうところがあると思っていて、全部が美味しいわけではないんです。加えて、私たちは自分たちが好きじゃないお酒は造る気にもならないというのがあります。そう考えると、マニアックや個性的と言われるお酒に走ってしまい、美味しいを踏み外すことになると元も子もないんですね。なので個性的という方向に行ってしまうとちょっとスタイルが崩れると思っています。逆にこれが私たちの個性だとも言えます。

私たちは個性のない日本酒をマーケティングによって造ったとは全く思っていません。ワインのような多方面に飛び抜けるような個性ではなく、日本酒のこの限られた中ですごく繊細な個性を追求することが美学だと思っています。もちろん今後“様々な方向性の美味しい“が生まれてくると思います。ただそれが、美味しい=格差がないとは考えない方がいいでしょう。単純に自分たちが好きな日本酒を造る姿勢を持ち、その中で美味しくするにはどうするべきかというのを考えていかなければならないと思います。

 

<Q:食事に合わせて日本酒が入り込んでいけるというお話でしたが、獺祭としてバリエーションを増やす予定はありますか?>

D:それはないですね。私たちは酒を造るプロであって、ソムリエのような勧めるプロではないし、シェフのような酒に合う料理を作るプロでもありません。私たちは自分たちのベストを尽くして日本酒を造りますので、他の方に獺祭に合う料理を作ったり勧めたりしてもらえる方が嬉しいなあと思いますし、メインが肉料理だからそこに合わせた日本酒を造りましょうとはならないですね。

あとはお客さんからすると、いろいろなお酒を取っ替え引っ替えするのが楽しいと思うんですよ。ビールから入って、日本酒に移って、最後は重たいお料理だからワインにしてとか、デザートにはウイスキー飲みますとか自由に飲む方が幸せだと思うんですね。変えられてしまう怖さはありますが、逆にそれを糧にして良い製品造りに生かしていきたいと考えています。

 

<Q:業界を牽引する立場として国内マーケットへはどのようにアプローチしていくお考えですか?ブランドが確立された今、次のステップに興味があります。>

D:すっごく難しい質問ですよね。国内マーケットと海外マーケットの境目ってこれから徐々になくなると思うんですね。明日獺祭をニューヨークで飲んだ人が明後日は山口県のうちの蔵で獺祭を飲むかもしれない時代なんです。日本食でもワインが普通に飲めるように、洋食でも日本酒が普通に飲まれていくようになると思うんです。そうした混ざり合った市場を作っていくことが私たち役割だとは思っています。頑張って営業していくというよりも、お客さんから求められて広がる時代を作ることが我々の使命だと思っているんです。とはいえ、まだまだ試行錯誤しています。

元々私たちは、日本酒は日本酒が好きな人しか飲んじゃいけないみたいな風潮があったところを、獺祭だったら美味しいから私日本酒興味ないけどこれなら飲むわっていうマーケットを作ってきたんですね。今度はそれを世界中でやって、ワインしか飲まないという人たちをひっくり返していく。そしてそれをまた日本へ還元できたらいいと思っています。実際、今年は海外市場の売り上げが全体の3割弱いきそうですし、それが今後どんどん増えていくとは思いますね。

N:海外から求められて広がっていく方が未来がありますよね。

D:そうですね。むしろこの状況で国内マーケットだけでやっていくというのはある意味難しいところだと思います。スポーツの選手を想像するとわかりやすいんですが、柔道の選手がいたとして、自分は山口県岩国市の出身なのでここでしか試合をしませんって言うと、まだ見ぬ強豪と戦うチャンスを逃しちゃうんですね。しかし山口県岩国市を背負って世界と戦いますと言ってオリンピックに出るというところを目指すとより強くなれる。地元や日本を背負う方がもっと成長できる。だから今海外を見ないという選択肢はないですね。

 

<Q:10年後、20年後、日本酒の未来をどう考えますか?世界の日本酒になれるでしょうか?>

D:獺祭としてそれは責任を持ってやっていきます。例えば30年前はアメリカでワイン飲む人なんてほぼいなかったんですよ。大体ビールかウイスキーでした。日本もそうでしたよね。その意味では未来はしっかり見えているので、それを5年でも10年でも早く創っていく。日本酒業界全体が世界で戦っていける状況を作ることを獺祭が責任を持ってやります。

<Q:日本酒が世界へ展開するためのステップはどのように考えていますか?>

D:今実際に話も来ていますが、現地にクラフトサケを造る蔵が増えてきているのが大きいですね。日本酒は日本人にとっては身近ですが、欧米人にとってはまだまだ身近じゃないんですよ。せいぜい日本に対してロマンや憧れを持っていれば飲めるものなんですね。しかしそうした酒造メーカーがその土地にできていくことで現地の人がSAKEを飲むことに対するハードルが下がるんですね。そうすると現地の酒と日本の酒の勝負が始まる。そうした競争が生まれることで日本も状況が変わってくると思います。競争激化によって品質が上がってマーケットが大きくなるというのは確実に見えていますので、それが第一歩。そこから始まってどんどん国境が消えていくと思います。SAKEと日本酒の競争がマーケットを盛り上げてくれると思いますね。

N:酒蔵の中には海外で酒造メーカーができることを脅威だと捉える人もいますが獺祭ではどのようにお考えですか?

D:そう、脅威なんですよ!打倒獺祭とかいうのも作りますし(笑)ただそれは脅威ではありますが、その環境によって失敗したり成功したりのノウハウを身につけて競争しないと成長が生まれない。めちゃくちゃ怖いんですが、そこに踏み出さないと未来はないですからね。

 

<Q:若い世代や可処分所得の低い人に日本酒を楽しんでもらうにはどうすれば良いと思いますか?>

D:質問への答えとは逆の答えになってしまうかもしれませんが、若い人に向けてお酒を造らないと考えています。安くて美味しいお酒ができるのなら私たちもやる価値があるかもしれませんが、今の私たちの考え方だとそれができません。それだったら、若い人たちが憧れる「獺祭飲みたいなあ」と言わせるようなお酒を造ることが私たちの目指すところだと思います。それが結果として、若い人たちが魅力を感じるものづくりになると思うんですね。最近の日本酒が若い人に向けてハードルが下がってきているのは良いことですが、それをどんどん下げて若い人たちに是が非でも飲んでもらおうというのは現状難しいと思っています。ですので獺祭としては憧れてもらう方に集中したいと考えています。

そうは言っても、私たちはお客さんが本当に美味しいと思ってもらえるものを造りたいと常々思っていますので、仮に明日から私たちが納得できるクォリティのものを低価格で造れる方法があるのだとしたらすぐでも着手します。

N:ブランディングとして高い酒を造るわけではなく、あくまでも自分たちが追い求める「飲んで幸せになれる美味しいお酒」を造ることを大事にしているんですね。

D:そうです。製品が先にあり、ブランドは後からついてくると感じます。

N:新しい飲み手に向けて行なっているアプローチって何かありますか?

D:やはりお酒は嗜好品なので、まずは飲んでもらうことだと思います。何を言っても飲んでもらえないと意味がありませんので、若い人には飲んで欲しいし、いつかは飲みたいと思ってもらわないといけない。実は日本全国、世界各国で獺祭の会を行なっています。そこの会場には若い方たちも数多く来ますね。獺祭の一番いい状態のお酒が飲み放題になるので本当に皆さんたくさん飲みますね。会社としては大赤字ですが、もうこれに関してはケチってもしょうがないのでどんどん持って行けと言っています。こうした場を通して一番美味しい状態の獺祭を飲んでファンになってもらい、そこをキッカケに次もまた飲みたいと思ってもらえたら嬉しいですね。一度飲んでもらって好きになるというところについては自信を持っているので、こうしたイベントは今でも継続しています。

何より、美味しいと思って飲んでくれる若い世代がいることが嬉しいです。パッケージや味の奇抜さで勝負をしているわけではなく、単純に美味しいからイベントに来てくれるというところに未来を感じますし、やってきたことに自信を感じるところですね。

 

<Q:酒の未来をどのように盛り上げられるか、桜井さんが考えている酒の未来について最後にお伺いしてもよろしいでしょうか?>

D:酒の未来というのはさっき考えたような、日本酒が世界中に出て行き、ワインも日本酒も当たり前に混ざり合うというのが理想の状態だと思います。ただ、そのためにはまだまだ日本酒というものの競争環境を増やしていかなければいけないと考えています。そこが怖い部分でもありますが、日本酒業界のためには、みんなで同じ方向を向いて盛り上げるというのではなく、うちだったり他だったりが個々に頑張って、それぞれに旗を振って自分の信じる道を進んでいく必要があると思います。その延長線上に酒の未来はあるんじゃないかと。

今の所未来は明るいんだけどまだ見えませんが、みんなが好き勝手に走っていくこと、それが未来に繋がっていると思います。勝負の世界で競い合ってこそ明るい未来があると確信しています。むしろそれができないと未来はありません。

N:研究所のメンバーに一言お願いします。

D:酒の未来は明るいと思っていますし、そこのために自分たちは美味しいお酒を造っています。さっき勝負が必要という話もしましたが、その勝負も楽しめるものだと思いますし、失敗も皆で乗り越えられるものだと思っています。是非みんなで楽しく未来を創っていきましょう。失敗も成功もたくさんしていきましょう。本当に皆さんと共に戦っていけると思っていますので、一緒に頑張っていきましょう!

こちらの二号蔵でも獺祭は造られています。

Kosuke Takayanagi

Kosuke Takayanagi

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