新潟県佐渡島で天領盃を醸す天領盃酒造様へインタビューに伺わせていただきました。
インタビュアーは並里です。20代で蔵を買収して酒造りへの挑戦を始めた若き力の熱い想いをご覧ください。
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天領盃酒造 加登様:K
並里:N
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N:はい、でははじめます!オンラインサロンSAKENOMIRAI研究所の蔵元インタビューLIVE配信ということでやらせて頂いています。3回目のインタビューは天領盃酒造の加登仙一さんにお話を聞きたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
K:よろしくお願い致します。
N:ついさっき秋田から戻られたんですか?
K:そうなんです。秋田のNEXT5の方々のところに行かせて頂いて勉強していました。合わせて雪の茅舎さんとまんさくの花さんへも伺って、気になるところや造りに関して自分たちが変えたい部分などを質問させてもらいました。
N:全部オープンでなんでも教えてくれるんですか?
K:結構どのお蔵さんに行ってもフランクに教えてくれます。
N:昔だったら入ることも出来ずに門前払いされていた位クローズドだったと思いますけど、最近はオープンなところが多いですよね。技術がオープンな分、若い人が活躍しやすいというか、学ぼうと思ったら学べる環境だから良いお酒造れますもんね。
K:そうですね。
N:加登さんは24歳で蔵を買収して蔵元になったということですが、それ以前どこかで修行されていたわけではないんですよね。
K:はい、修行していたわけではないでく証券会社に勤めていました。
N:それで飛び込んできて。今は勉強しながら酒造り!って感じですもんね。
事前質問について
N:では、事前にオンラインサロンで質問を頂いてますので、読んで行きたいと思います。今日はお酒とか飲みながらお話ししましょうということで。
K:それではお酒は雅楽代(うたしろ)の純米から行きましょうか。
N:よろしくお願いします(乾杯)。いいですね、酸の感じとか。甘味旨味もあって。
K:酸はもう少し抑えたかったですね。
N:そういう課題があるんですね。まず造ってみて、もう少しこうしたいというような感じですよね。雅楽代は加登さんが新しく作ったブランドを伺いましたが、この仕込みは初めてですか?
K:そうですね。今までの天領盃の仕込みと比べると酵母も麹菌も麹のつくり方も違うので、完全に手探りです。
N:こっちの「天領盃」の銘柄については受け継いだレシピそのまま?
K:今はそのままにしていますけど、今後についてもやはり同じ方向性でより良いつくり方にしていくのと、品質管理を徹底していきたいと思っています。今まで流通していた物で、しかも地元の方に愛されていた物を私が入ったからといってガラッと変えることはしたくないですね。
N:なるほど、それを大事にしつつ新しい事をやっていくというイメージですね。ではここから頂いている質問の方に移っていきます。
<Q:天領盃酒造さんのビジョン・ミッションとは?>
K:ビジョンと言っていいのかはあれですけど、私が天領盃をやるようになって、自分がお酒を飲む時ってどんな時だったかなって考えるようになりました。私の場合は友達だったり家族だったり同期だったり、誰かと一緒に楽しく飲むというシーンが強く出てきたんです。なので、天領盃と雅楽代に関して今後の全体感、ミッションで言うと、皆さんが楽しくお酒を飲んでいるシーンを楽しく彩れるお酒というのが一番です。これがどのお酒にも共通している事です。
N:どのシーンでも対応出来るラインナップというのは考えていますか?
K:そうですね、ラインナップというよりは、どのシーンでどのお酒を選ぶかは消費者の方に選んで頂ければ良いと思います。楽しい時だったら派手なお酒を飲むとか、しっとりとしたい時、食事を愉しみたい時だったら、とか。後は寒い時は燗酒でもいいですし。ウチだと派手なお酒といったら「ウロボロス」とか「天領盃大吟醸」とか。食中酒となると「玉響」「可惜夜」とか。お燗だったら…おだやかって意味で天領盃の純米とか。色んなシーンに合うようにこちらも考えて造ってはいて、そこから何を選ぶかは消費者の方次第です。
N:この天領盃とは別に雅楽代シリーズで可惜夜とか玉響があると思うんですが、雅楽代というのは食中酒のイメージなんですか?
K:はい、雅楽代のシリーズは先ほど言ったミッションの部分を前面に押し出していきたいと思っていて、飲む人が主人公で、楽しんでいる料理おつまみがあって、その脇役で良いと思っているので。「気付いたら飲んでた!」みたいな。
N:あーいいですね、そういう自然な、すいすい進むお酒というか。寄り添うお酒というか。ザ・リバースの方は雅楽代シリーズとはまた違う感じですよね。
K:ザ・リバースのシリーズに関して言うと、完全に僕たちの趣味丸出しです。リバースという言葉も「再生」とか「復活」というのをテーマにしています。
N:復活というのは例えば古典技法とかですか?
K:そうですね「復活」という大きな括りの中で、例えば古典技法を復活させてみたりとか、あとは天領盃の過去終売した商品の経過簿が残っているので、それを現代風にアレンジしてみたりとか。
N:面白いですね。今回の名前も「ザ・リバース タイムマシン ウロボロス」と長い名前になっていますよね。
K:中二病みたいですよね(笑)
N:「ザ・リバース」と言う部分が大きな括りで「復活」をテーマにしているんです。その中にタイムマシンという作品があるイメージですね。
K:そうなんです。過去からタイムマシンのように持ってきたという。
N:なるほど。これは「貴醸酒」なんですよね?
K:はい、昔のお酒を新しいお酒に食べさせて復活させる、再生させるという感じです。「ウロボロス」が古代ギリシャにおける再生の象徴なので。
<Q:加登さんの好きなお酒は何ですか?>
K:まず次のお酒飲みましょうか(乾杯)。好きなお酒は…日本酒以外だったらハイボールなんですけど、日本酒だと…最初にハマったきっかけが写樂ですね。
N:そこから日本酒美味しいとなったんですね。
K:気が付いたらハマってました。
N:そうすると、自分の中でどういうお酒を造りたいっていうベースには写樂の酒質があったりするんですか?
K:そうですね、やっぱりあります。
N:写樂には行かれましたか?
K:まだ行った事ないんです。。。写樂さんよろしくお願いします!あと最近美味しいと思ったのは、峰乃白梅の「菱湖(りょうこ)」、新潟に来て面白いなと思ったのは「村祐」ですね。
N:新潟=ドライなイメージですが、もう少し味がある方が好みという感じですか?
K:そうですね、好みって変化していくと思っていて、きっかけは写樂で、色々飲んで村祐とか、割と甘みのあるお酒にもハマりました。そんな中で最終的に自分がこういうお酒飲みたいなというのを造るのが雅楽代シリーズです。今回のは少し甘くなり過ぎちゃったと思うので、次はもう少しスッキリさせてしっかりとした酸味もあって、穏やかな香りで、というように仕上げたいですね。
N:なるほど。ちなみに今回酵母はどういう酵母なんですか?
K:雅楽代シリーズに関しては全部701号です。香りも穏やかだし酸も出るし。ただ、今回は温度経過で最高品温とる位置が早すぎたんです。なので、苦味だとかがちょっと出ちゃいました。次の造りではもう少しズラして抑えて…醪期間は長くなるんですけど、それで造ってみようと考えています。今回は五百万石100%で造ってるんですけど、味を出してボディを膨らませるためにはあえて五百万石100%にこだわらなくてもいいかなと思っています。
N:五百万石は佐渡で作ってるんですよね。実際に稲作にも行かれたとか。
K:そうなんですよ。行ったはいいんですけど自分が稲アレルギーでくしゃみばっかりになっちゃって(笑)
N:まさかの稲アレルギー(笑)。蔵元さんで稲アレルギーはつらいですね(笑)
N:今後はどういうお米使いたいとか願望ってありますか?
K:色々使いたい気持ちはあるんですけど、やっぱり地元で作ったお米で造るのが一番だと思っているので、五百万石と越淡麗、こしいぶき、あとは今契約農家さんと一緒に作っている一本〆という米をやっていこうとしています。
N:楽しみですね。米が違うとまた味わいも変わってきますもんね。
K:「まんさくの花」の米違いを飲んだんですが、酵母と麹は一緒にもかかわらず味が全く違いました。
N:そうやってどんどん米の適性を見て探っていく作業も大事ですよね。酵母は変えていくんですか?
K:酵母はもう701号から変えるつもりはないです。
N:なるほど、全商品ですか?
K:雅楽代シリーズだけですね。あとは基本9号を使用します。天領盃純米と純米大吟醸、ザ・リバースは9号ですね。大吟醸プレミアムは9号と1801号のブレンドです。
N:ザ・リバースいいですよね。貴醸酒はお好きなんですか?
K:正直、今回貴醸酒を造る気は全くなかったんです。あ、飲んでみますか?
N:ありがとうございます(乾杯)無限のマークついてますね。
K:それ取るか取らないか迷ったんです(笑)中二病っぽくなるならとことん行っちゃえと思って残しました。
N:美味しいですね。甘味はありますけど、スッキリしてべたつかないです。
K:完全お試し企画だったんで、悪評でもいいやと思って甘さに付随して酸味もグッと高くしています。
N:そうですよね。それでこの軽さが出てるんですよね。香りにも酸のイメージが出てるなと思いました。
K:ありがとうございます。かなり温度帯を高く造っているんです。僕の造り方なんて皆さんと比べたらぺーぺーなんですけど、17度くらいまで上げてます。
N:そうなんですね、醪日数はどのくらいですか?
K:醪日数もその分短いですね、これは22日くらいだったかな。
N:酸度はどのくらい出たんですか?
K:これは3.2だったかな。
N:3.2!結構出しましたね。でも甘さがあるからか、そこまで強く感じないですね。
K:あ、これ非公開だったかな(笑)
N:まあいいじゃないですか、酒質なんて言っても真似できないですしね(笑)
K:ザ・リバースについては、最初本当に造る予定なかったんですよ。この年は佐渡の天候が荒れていて潮風が直に当たって稲がすごい倒れちゃって、そのせいで農家さんに造ってもらっていた越淡麗が等外米になっちゃったんです。今までの長い付き合いの中で初めてのことでしたね。それが運悪くうちが契約栽培をお願いしていた越淡麗だったんですね。正直うちは特定名称のお酒しかなかったんです。でも等外米だと特定名称は名乗れなくなっちゃうので、造れないんですよね。このお米使えないってなっちゃう。でも、うちが引き取らないと農家さんが収入ゼロになっちゃうので、等外米だけど買い取ることにしました。そこから、買い取ったはいいけどどうしよう…って。
N:そうですよね、酒造計画とかもあるし
K:はい。それでもう計画を一気に変えて貴醸酒を造ろうと思って調べていく中でいろんな文献を読んだんですが、古酒との相性が良いって書いてあったのでうちに残っている古酒を使うことにしました。なので正直、造ったお酒がダメだったらそれでいいやって。温度帯もぶっ飛んだことしてますし。農家さんが今季初めて等外米を作っちゃったのを救えればそれでいいかなって。そしたら、あれ?思ったより美味しい?ってなって(笑)
N:本当に美味しいです。なんかそのストーリーも話したら応援してもらえそうですよね。農家さんを救うことにもなりますし。
K:救うというか、農家さんもリスクを取ってやってくれているわけだし。そのリスクはうちも負いますという感じですね。
N:なるほど。しかし、さすがの機転ですね。
<Q:今現在造りに入ってどのようなところに苦労していますか?>
K:やっぱり今まで全く造ったことがなかったので、手探り状態なことですね。3月から9月末の造らない期間があったので、そこで酒造教本とか読みまくりました。一番大きなターニングポイントは10月かな?醸造協会のセミナーがあって、そこで仙禽の薄井さんと赤武の古舘くんと風の森の山本さんが来ていてお話しできたのと、広島の酒類総研の吉田先生の講義で醪の管理プロセスのお話があって、そこで今まで知識として点々と集めていたものが線として繋がってきたことで造りの前に理論上はわかるようになったことです。…でもまあ、やっぱりそう簡単には上手くいかないっていう(笑)本当は甘さをちょっと残したかったんですけど、キレッキレのドライな味になっちゃって。最初搾って飲んだ時は「自分の見た目みたいな酒」になったなと。なんかシュッと細い感じの(笑)
N:それはそれで良さそうですけどね。
K:それを酒販店さんに持って行って出してみたんですけど、そうしたら「これ、加登くんが思ってる味じゃないよね」って言われてしまいまして。
N:そこに気付く酒販店さんもすごいですね。
K:酒販店さんには褒めないでくださいって言ってるんです。どんどんけなして欲しいっていうか、ダメな点を言ってくれないとわからないんで。それでそこから1ヶ月位経って、冷蔵庫に入ってる自分の酒を飲んでみたら、甘さが乗ってたんですよ!
N:なるほど、生酒だったんですか?
K:そうなんです。グルコースって言葉は知ってたんですけど、酵素がどう働くのかとか分かっていなくて、生酒だったら酵素が働くからグルコースが増えていくとか理解できてなかったんですよね。
N:それが体験して得られたわけですね。
K:はい、それで酒販店さんにすぐ電話して「なんか知らないんですけど甘くなってます」って(笑)
N:今ちょうど良くなってます!って感じですね(笑)
K:本来であれば搾った時に求めている甘味にして、そこで火入れしておかないと、生の貯蔵期間の長さで今度は「生老ね」してきちゃうんですよね。なので偶然できたものではあったんですけど、香りとかを除けば味として求めているところはコレだなというのがあったんで、そこに向けて今回この雅楽代シリーズを造っていったんですけど、まあ見事にキレましたね。
N:やっぱキレちゃうんですね(笑)
K:やっぱり7号は発酵力が強いんで、もっと温度下げて行かなきゃなって感じです。
N:難しいですよね。そういうの新政の佐藤さんとかに相談したんですか?
K:相談しました。広島にも佐藤さんがゲスト講師の形で来ていて、その時にもお話しして。今回秋田に行ったのも、講習で知り合った同期と一緒に行ってきたんです。
N:そうなんですね。
K:雨後の月の相原さん。相原酒造の現社長の息子さんですね。年齢は一個上なんですけどね。
N:いいですね、この世代は期待の星がたくさんいて。
K:そうですね、加茂錦の田中くん、赤武の古舘くん…年は1、2個上ですかね。
N:ライバルっていう感じですか?
K:いや、ライバルっていう風には考えたことなくて、彼らからしてみると俺なんかまだまだ駆け出しなんで。どちらかというと色々教えてくださいって立ち位置です。
N:これからがホント楽しみです。
<Q:今後挑戦したい造りやコンセプトは?>
K:コンセプトは最初にお話しした「みんなで楽しむ」というのはブレないです。これは絶対ズラさないですね。造りでいうと…やっぱり生酛・山廃ですかね。
N:そうですよね、ロマンですよね。でもすごく大変ですよね。
K:今回の研修でも別の班の生酛を少し手伝わせていただいたんですけど、酛摺り、まあ大変ですよね(笑)でもやっぱりそこに面白さがあるのかなって思いました。
N:新政の佐藤さんも独自路線の生酛をやっていたりして、参考になりますよね。
K:そうですね、でも多分今聞いても僕の知識が追い付いてないと思うんで…。
N:あそこに追いつける人はなかなかいないですよね(笑)
K:なので今回はもっとベーシックなところを色々質問しました。これから生酛をやり始めたらもっと聞いてみようと思います。
N:蔵の人数としては山卸し(酛摺り)やるのにどうなんですか?
K:そうですね、そこの問題もありますよね。
N:蔵によっては外部に手伝ってもらうところもありますよね。体験会とかで。
K:今後そういうのもできれば面白いかな。
N:佐渡に来てもらえますしね。
<Q:意識している蔵元・銘柄は?>
K:やっぱり私の中でベースになっていて、最初に目指そうと思ったのは写樂。意識しているところでいうと…僕が今新潟で一番仲良くしてもらってると思ってる「あべ」ですね。阿部さんのところは毎回どんなお酒かなっていうのは常に意識して見てますね。
N:たしかに面白いですよね!
K:あとは賀茂錦とか、年代の近いところは意識してます。今回研修で一緒になった雨後の月の相原さんも気になりますし。あ、飲みましょうか。次は天領盃純米酒を常温で(乾杯)。後ガス感とか気になるところではあって、そういう意味で「風の森」や「澤屋まつもと」、「賀茂金秀」は意識してます。
N:ガス感を残したいというのがあるんですね。
K:そうですね、うちの今の設備だとガス感を残そうと思ってもあんまり残らないんです。この前それでも無理やり残そうと思って酒を搾って受けタンクに移してすぐ瓶に詰めたんです。それで瓶燗してガス感残そうと思ったんですよ。そしたら瓶燗中にどんどん瓶が爆発してくんです。本来であればキャップを緩めて半打栓にするんですけど、僕はグッと閉めていて。
N:ガス感残したいですもんね(笑)
K:そしたらお酒が爆発し始めて拡散弾のごとく四方八方に飛んでって…。みんなで逃げて壁から覗いて「大丈夫かな・・・」みたいな感じでした(笑)
N:(笑)それ、全滅に近い状態ですか?
K:いや全滅まではいかなかったです。4合瓶はなんとか大丈夫だったんですけど、1升瓶の方がパンパン割れて結局120本のうち10本が割れたのでもやめておこうってなりましたね。なので何故か4合瓶が火入れ、1升瓶が生酒っていうイレギュラー出荷になっちゃっいました。
N:まあしょうがないですよね。火入れのやり方は誰かに聞いたんですか?
K:いや、完全にこうやればいけるかな?っていう感じでやりましたね(笑)結局その後いろんな人に聞いたら「バカなんじゃないの」って怒られました(笑)
N:そりゃ割れるだろってやつですね(笑)
K:そうやって実体験しつつ学ぶという原始的なやり方しかできないんです。
N:ちなみに4合瓶の方はガス感残せたんですか?
K:あれは本当に無理やりなんとか残した感じだったので、1本目は残せたんですけど、2本目からはダメでしたね。なので今回「ものづくり補助金」も通ったので、それで次設備投資するのが、ガス感を残すための設備です!
N:パストライザーとかですか?
K:いや、パストライザーはまだまだ全然買えないので…瓶燗火入れ機と、サーマルタンクを貯蔵用じゃなくて受けタンク用に使って、冷やした状態でタンクから直で瓶に充填できるようにします。
N:じゃあ次のお酒からガス感が残る?
K:残せると思います。
N:これでよりフレッシュなイメージで楽しめそうですね。
K:そうですね、甘味があっても酸やガス感があればスッキリするので。
<Q:流通について飲食店・酒販店に求める事>
K:雅楽代とリバースは特約店銘柄にしていて、飲食店や売店で直売りはしていません。売店に関してはイレギュラーで出すことあるんですけど、それはケース単位で出荷した時に端数が出てしまう時があるので、それだけ蔵の売店に出すみたいな感じです。規模をガッと広げていこうと思ったら飲食店さん直とか、特約店にしなくてもいいと思うんですよ。ただやっぱり自分の想いがある銘柄を売ってもらう人ってどういう人がいいかなって考えたときに、一番は「直感」。実際会ってみて気が合うかどうか。同じ方向を向いているかどうかを大事にしたいなと思っています。取引する条件といってはあれですけど、取引する前には必ずうちに来てもらう。それで、うちの設備だったりこだわりだったりを知ってもらうってことと、来てもらうだけじゃなくて自分もその酒販店さんに行く。酒販店さんの売り方、どういう拘りがあって売ってるのかを見るようにしています。うちだけ一方通行で知ってもらっても意味がなくて、双方で知っていてようやく、というようなイメージです。なので、大多数の酒販店さんが注文もFAXとか電話じゃなくてFacebookメッセンジャーとかで来ます。こう言ったら怒られちゃうかもしれないけど、良い意味で変わった酒販店さんが多いです。それこそ僕に「テキーラ加登」ってあだ名をつけた酒販店さんとか(笑)
N:あれなんだろうって思ってました(笑)
K:新潟長岡のカネセ商店さんってとこで、東京に一緒に飲食店さん回って飲みに行ったときに、僕じゃないですよ、カネセさんが行くと絶対テキーラが用意されてるんです。
N:テキーラカネセさんじゃないですか!
K:そう、完全にテキーラカネセさんなのに!1日8杯くらい飲んでたんですけど、気付いたら「#テキーラ加登」ってタグが付けられてて。自分のテキーラキャラをこいつになすりつけようって(笑)で、気付いたら他の酒販店さんもTwitterに「#テキーラ加登」ってタグつけ始めて今に至ります。
N:普段はハイボールですもんね(笑)
K:ですね、でももう止めらんねぇなって思って、最近はもう自分で「#テキーラ加登」付けてます(笑)
N:若いですね酒販店さんも。
K:そうですね、良い意味でぶっとんでる人が多くて、そういうとこも僕は好きだし。だからこそ色々と本音で話せる。僕は仲良くしてもらってると思ってます。
N:酒販店さんから電話で取り扱いさせて欲しいとかって話は沢山来ますか?
K:それこそSAKE TIMESの記事に載った時にそういうのは多かったですね。その時も「なぜうちのお酒がいいんですか?」「どのお酒を飲みました?」「どこで飲みましたか?」っていうのを聞くと大体分かるんです。多分うちのお酒そんなに好きってわけじゃないなとか。これ完全にぶっちゃけトークですけど「実際飲んだことないです。記事見たから取り扱いたいです」とか「〇〇酒店さんが扱ってるので」とかね。自分の感覚で言ってきて欲しいなって。バッシングを恐れずにその時自分が本当に電話口で言ったままの言葉を言うと「もっと勉強してから来てください」って。
N:そりゃそうですよね。
K:話題性だけで取り扱って欲しくないんですよ。一過性のブームのためにやってるわけじゃないので。
N:そうですよね。24歳で買収して蔵元になったというのもある意味衝撃的で話題性抜群だったと思うので、そういうのはあるでしょうね。今後もっと腕を磨いていって魅力を知ってもらって、その上で飲んでもらった人から取り扱いたいって声が増えていくという流れがいいですよね。
K:はい。そうなってくると私としてももっと美味しいものを造らなきゃって気持ちも強くなるだろうし。やっぱり責任やプレッシャーがある方が私は好きなんですね。追い込まれた方が頑張れる。いや、むしろ追い込まれないとやれないの方が強いかもですね。なので自分の環境をあえて厳しいところに置いていくみたいな。
N:ストイックですね。これはどんどん酒質も上がっていきそうですね。
K:そうですね、途中天狗にならなきゃいいんですけどね(笑)
N:やるときはとことん突き詰めるタイプですか?
K:そうですね、一個ハマるともうそれしか見えなくなっちゃうタイプなんで。
N:テニスやブレイクダンスもですよね。
K:テニスは小学2年生から中3までずっと週5でクラブチームでやってましたし、ブレイクダンスも大学の授業終わったらすぐ!って感じで毎日のようにやってましたね。
N:今はその情熱がSAKEに向いてるということですね。
<Q:国外流通については?>
K:結論から言うと今はほとんど考えてないですが、将来的な着地点としてはやっぱり国外を見ていきたいです。僕が日本酒を好きになったきっかけはスイスだったので、その時の仲間たちに造った酒を飲んでもらいたいというのはあります。
N:そうですよね、まだ送ったりはしてないんですか?
K:まだしてないですね。何故まだ海外に行かないかというと、まだ自分が納得できない、試行錯誤している段階だから。ある程度コンセプト通りに造れるようになってから海外に行きたいというのがありますし、海外市場が正直まだちゃんとなってないかなって。
N:今はまず地盤を固める感じですね。
K:そうですね、地盤を固めてから海外に行こうかと。
<Q:赤字蔵の黒字化について>
N:決算書を見て具体的にどういう改善戦略が見えましたか?
K:M&Aにいくまでに14件ほど候補の蔵を見た中で、天領盃が一番財務内容がずぼらだったんです。なんでこんな販管費率高いんだろうって。それこそ前職が証券会社だったんで。いろんな指数を見る癖は付いていて、自分で計算していった中でズバ抜けて販管費率が高かったんですね。なんでだろうと思って蔵に来て総勘定元帳を一から全部見させてもらって。これいらない、これいらない…って削っていって集計してみたら、「あれ?削るだけで黒字じゃない?」と。商品内容も地元向けのお酒と観光者向けのお酒しかなくて、真ん中の層がすぽっと抜けていたんです。
N:ある意味一番使い勝手のいい層ですよね。
K:そうなんです。皆さんに一番飲んでもらいたいところだし、自分が飲んでいたお酒も純米吟醸・吟醸あたりが多かったんですよね。その部分がごっそり抜けてたんで、そこを自分は造りたいと。何よりそこに一番ニーズもあるのかなと。他のM&A対象の蔵はラインナップがちゃんと揃っていて、しかも意外としっかりコストを詰めてた。
N:なるほど、その上で状態が良くないという蔵ばかりだったんですね。その点、天領盃は伸びしろがあったと。
K:そうですね、改革しやすかった。まずは社員さんもいるし自分の生活もあるし、酒質どうこうよりも企業を健全化させないといけない。自分がやりたいことをやって赤字になってたら意味がないので。そう考えると収益を健全化して一番自分がやりたいことを出来るまでの距離が短いのが天領盃でした。
<Q:異業種目線で見た日本酒業界のおかしなところは?>
K:最初にビックリしたのは、コミュニケーションツールがFacebookなんです。今まで金融だったんで、メールすらあんまりしないんですよ。メールも監視されている上で送ったりとか。基本的には電話も録音されてますし。絶対スーツだし。でも酒販店さん見てるとめっちゃフランクだなって。
N:ビジネスの間柄でFacebookでやり取りするって確かにフランクかもしれないですね。今も注文Facebookですもんね。
K:そうですね、今となってはその方がやりやすいですけど最初は驚きましたね。後、やり取りはFacebookとかなのに、在庫管理とか出荷管理とかは何十年前のすごく古い帳票を使ってる。出張もあったりする中で、自分に注文がメッセンジャーで入ってきたのを本社に転送して、それを向こうが見てないかもしれないから電話で確認して、とか。そういうのがもっと現代的になればいいのにと思いますね。コミュニケーションツールは進んでいるのに作業の部分が昔のままというか。一番困るのが経理に自動連動できていない事。一回全部紙に出してやってるんですよ。
N:蔵の人は結構そのあたりに膨大な時間かけてたりしますよね。そういうところをカットできればもっと造りに力かけられるかもしれないし、そういうところの課題は大きいですよね。
K:そうですね、経営の面でいうと一番核となって重要な部分なんですけど、一番時間をかけたくないところなんで。
<Q:日本酒=悪酔いというようなレッテルを払拭するには?>
K:日本酒=悪酔いとか罰ゲームってイメージの人って、50代の人にもいるし、僕ら世代にもいるんですよね。多分その間の世代にも。そういうのがあると実際には違ったとしてもちょっと食わず嫌いというか、固定概念が出来てしまう。そこを完全に払拭するのは難しいと思っているところがあります。払拭できるのが一番いいけど、その中でも日本酒を好きになってくれている人達に向けていいお酒を造るという事が出来れば、というのがまず最初。その後にそのお酒がある程度のレベルのものになっていたならば、外に広がっていくっていうようにしなきゃいけないなと思うんですけど、まだそこまでのことは出来てないです。なので業界全体の取り組みが不十分とかいう風には思ってないです。それこそNEXT5の企画とか、各酒造組合も色々イベントやってますし、「日本酒で乾杯」とか中田さんの「クラフトサケウィーク」とか。若い人たちWAKAZEとかHINEMOSとかも取り組んでますし。一度日本酒=罰ゲームってなった人達って、外で何か盛り上がってても自分の視界に入らなくて、興味がないと思うんですよね。言い方は悪いけど、そういう人達には何をやっててもやってなくても一緒というか。僕らの世代って意外と日本酒=美味しいって人が多いんですよね。
N:それはちょっと感じるところですよね。
K:僕の弟が今年21歳で、「お前日本酒飲むの?」って聞いたら「意外と飲むよ」って。意外とってなんだよ、俺が造ってるんだから飲めよって(笑)。弟とか周りの友達って案外日本酒=悪酔いよか罰ゲームって感じじゃないんですよね。じゃあ何飲むの?って聞いたら「十四代とか飛露喜とか」って生意気だなって(笑)
N:今ってそういうお酒にアクセスしやすいですからね。少し前まではそういうお酒に中々出会えませんでしたが、最近は若い人もそういうのすぐ飲めますからね!
<Q:加登さんの考えるSAKEのMIRAIとは?>
K:日本酒=悪酔いや罰ゲームというイメージは将来的にはなくしていきたい。ちゃんとした美味しいお酒。それこそワインにはない、ビールにもない日本酒独自の発酵技術とか、火入れの技術だってワインよりずっと昔から分かってやっていたりとか、日本人が創り上げてきた技術というのを多くの人に分かってもらいたい。今後グローバル化していく中で、海外に行く機会も増えるはずですから、国の文化だったり酒だったりって行った先で絶対聞かれるんですよ。そういうところをちゃんと喋れるようになってもらいたいなって。僕も恥をかいてるんで、喋れなくて。そういう意味では、英語を喋れるとかいろんな国の言葉を喋れるだけでは真の国際人とは言えなくて、自分の国の文化を相手に伝えられる人が国際人なんだって思います。世界中の人と話す中で話題としてアルコールってやっぱ強いんですよ。だからそういう時に自分の国をどんどん自慢できる人たちが沢山出てきてほしい。今の20〜25歳、僕より下の世代では日本酒・焼酎は美味しいって言ってくれる人が意外と多いと思います。SNSやネットの発信も盛んになっていますし、そういう人達が20代後半とか経済の中心になってきた時に、今まで酒造組合だったりNEXT5だったりいろんな人がやってきた取り組みが花開くのかなって思っています。なので、そういう僕より下の世代の人達がより日本酒を楽しめる場というのを提供できるようになりたいですね。SAKEのMIRAIというところは、僕は一生懸命造りますので、若い世代や今飲んでくれているの皆さんはどんどん外に向けてSNSだとかで発信して頂いて、いずれ何年後になるかはわからないですけど、みんなが日本酒を楽しめる時代をつくれればいいなと思います。
N:すごく頼もしいです!今25歳でした?
K:26歳(2019年7月当時)になったところですね。
N:そっか、先月(6月)ですよね!おめでとうございます!26歳とは思えない頼もしさで、これからの活躍が楽しみです!今日はどうもありがとうございました!
K:ありがとうございました!